自治医大の修学金の一括返済制度は違憲?我がまま?【誰でも分かる裁判のポイント】

雑記帳

 こんにちは、ビタミンです。

 自治医科大学の卒業生の方が、医師免許取得後に、一定期間のお礼奉公をする約束を守れず、修学金を一括で返済するように求められたのは、憲法に違反すると訴えているユニークな裁判が始まっています。

 条件付きでお金をタダでもらっておいて、条件を果たせなかったために、最初の約束通りに一括返金をもとめられたのは、憲法違反だ!と訴えている主張は認められるのでしょうか?他人事ながら気になる裁判ですね。

 もしも、自分が裁判官なら、どのような判決を出すのかと、考えながら裁判の行方を見守って見ましょう。

 約束を破ると数千万円の修学金一括返済を求める自治医大のシステムは、果たして悪魔のような制度なのか? 裁判官の常識と、あなたの常識比べるチャンスです!

この記事で分かること…。

  •  裁判で争われている修学金制度とは
  •  卒業生の主張
  •  裁判長の判断の注目点

 それでは、早速見ていきましょう

裁判で争われている修学金制度とは

 自治医学大学、通称自治医大は、公設民営の私立大学です。

 この大学の特徴の一つは、修学金制度と奨学金制度の両方があることです。

修学金制度は、条件を守れば返還を免除される制度

 修学金とは、大学で授業を受けるための、入学金や、授業料、実験費用とその他諸々で、学生生活を送るための生活費以外のものを指します。

 この修学金は、大学を卒業するまでの6年間で、23,000,000円です。

 大学卒業後9年間指定された病院で働き、そのうち半分は僻地勤務となる条件(約束)を受け入れれば、この制度の適用を受け、全額返還をする義務がなくなる制度です。

 もちろん、条件(約束)を守ることが出来ない場合は、頂いた23,000,000円に利子を付けて一括で返済する必要があります。

 経済的な理由で医学部進学に困っている学生の方には、医師になるために必要な修学金が実質免除される制度としてとてもありがたい制度ですね。

奨学金制度は、卒業後9年間で分割して返す制度

 その他、大学生活を送るために必要な生活費については、通常の奨学金制度で対応できます。

 奨学金制度は、希望者には無条件で月額50,000円、その他に家庭の経済状態や学業成績などの状況によっては選考で最高月額150,000円まで無利息でお金を貸してくれる制度です。

 当たり前のことですが、奨学金は、修学金とちがって返済免除のシステムは無くて、卒業後、9年以内に全額返す必要があります。

 そう考えれば、奨学金制度より、修学金制度の方がずいぶん学生にとって有利な制度だと思われます。

卒業生の主張

 今回、修学金制度お一括返済の制度は憲法違反で違法であるとの主張で裁判を起こしたのは、自治医大の卒業生の方です。

 2015年に自治医大に入学した方は、2022年に大学を卒業され、指定された勤務場所で務めていましたが、個人的な理由で退職をしたことから、修学金制度の規定により在学中に受けていた修学金2660万円を一括返するよう求められました

 これまでの常識では、最初からその約束で修学金制度の恩恵を受けていたのですから、この卒業生は、修学金を一括返済する義務があるのですが、この卒業生は、今年3月5日の提訴時の会見で

  •  無知な受験生を囲い込んで、卒業後、退職の自由を奪った上、不当な労働条件で使いたおす、まさに悪魔のような制度

と主張し、一括返済を求めた同制度は憲法や法令に違反しているとして、一括返済を拒否しているのです。

裁判長の判断の注目点

 修学金を借りるために行った最初の約束の条件自体が、憲法や法律に違反しているので、そんなでたらめな条件がある約束には従う必要がない訴えているこの卒業生の主張は認められるのでしょうか?

 借りたお金を返すのは当たりまえの話で、この際、卒業生は、この制度のどこが憲法違反だと言っているのでしょうか?

金利からの考察

 お金を借りる際の利子は、出資法等で利子の上限が法律によって示されているので、卒業生が返済を求められている修学金の利子についてその範囲内なので、問題がないと思うのですが。

 しかし、この卒業生は、修学金の利息は、一般的な奨学金と比べて、10%と高い利息が定められていることに不満があるようです。

 修学金は、一般的な奨学金とは目的も、主旨もことなるものなので、別の物の金利と比べて高い安いを論じるのは、如何なものでしょうか?

 日産の車が、10%値引きをしたのに、なぜホンダは10%値引きをしないのだ!と主張しているのと同じ理屈ですね。

 主張する自由はあっても、値引きをしない側にも自由があるので、それが違法に問われることはないと思うのですが、皆さんが裁判官なら、どう思われますか?

返済方法からの考察

 返済方法が、奨学金制度のように9年間で分割するのではなく、一括であることが問題になっているのでしょうか?

 一括で返済できない経済状態だから制度を利用したのに…、というのは、憲法問題ではないようなので、別の所でお金を借りて、一括返済すればよいので、返済方法についても、人道的に分割にしてあげるとかの検討の余地はあるとしても、法律的に問題はなく、ましてや憲法違反になる要素はないようですね。

制度内容の問題についての考察

 提訴時の会見で、卒業生が主張した問題点は、

  1.  無知な受験生を囲い込んだ
  2.  卒業後、退職の自由を奪った
  3.  不当な労働条件で使いたおした

の3点でした。

無知な受験生を囲い込んだ?

 卒業生のこの主張は、「目指していた国公立大学の受験日に合わせる世に愛知県庁に出向き自治医大の入学手続きをするよう指示され、別の日に入学手続きの日を変更してほしいという卒業生の別の日に手続きを行えるようにして欲しいという希望がかなえられなかった」ことが、無知の受験生を囲い込んだのだと主張しています。

 結果として、卒業生は、別の国立大学の受験を断念して、自治医大入学の手続きを行ったのですが、

  •  このことが、無知な受験生を囲い込んだと主張する根拠になるのか?

皆さんが裁判官なら、どう考えられますか?

 国立大学を受験するか、自治医大入学の手続きを行うか、その選択を迫られたのは、憲法になったり、無知な受験生を囲い込んだと言えるのでしょうか?

 私なら、今回の選択は、本人の自由意思に基づいて行われたと判示したいと思います。

卒業後、退職の自由を奪った?

 卒業後、この方は愛知県職員として研修医になりましたが、その後の家庭の事情で経済的に困窮したそうです。

 他大学を卒業した一般的な研修修了医師の場合は、通常の年俸の他にアルバイトで360万円程度を稼いでいるようですが、この方の場合は、地方公務員身分のためにアルバイトは禁止されできないので、自治医大卒の研修医でなければ、自由にアルバイトが出来たのに…、と思う気持ちは十分理解できます。

 その後も、アルバイトが出来なくて、毎年勤務先が変更される可能性のある指定公立病院等での勤務を継続することは、経済的に厳しいと考えて、この卒業生は、2023年5月23日、愛知県に対して2024年3月31日で退職する旨の退職届を提出しました。

 すると、愛知県から、

  •  退職届を提出すると、臨床研修修了医師に必要なその後の研修が出来なくなる

と説明され、その時は退職届の受理を拒否されましたが同年8月末に、依願退職が認められ2024年3月末に病院を退職しました。

 その結果、この卒業生は、修学資金2660万円に加え、年10%の損害金1106万円(合計3766万円)の一括返済を求められたそうなのです。

 以上の展開の中で、どこの部分が卒業生の退職の自由を奪ったと言えるのか、あまり理解できないのですが、「退職届を提出すると、臨床研修修了医師に必要なその後の研修が出来なくなる」との説明が、もしかしたら、「退職の自由を奪われた」とする理由かもしれませんね。

 皆さんが裁判官なら、この卒業生の主張をどのように解釈・理解されますか?

不当な労働条件で使いたおした

 こうして、退職した卒業生は、自治医大側と愛知県側を提訴しています。

 この卒業生も、自治医大が僻地医療に携わる医師を充足させるための大学だと、受験前から十分認識はしていましたが、今回裁判を起こした理由は、

  •  卒業後の細かい労働条件等についてはあまり説明がされなかった点や、在学中に卒業後のキャリアについて、後出しのような形で、診療科が選べなくなったといった点

としており、入学前の事前の説明が不足していたので、後出しで不当な労働条件で使いたおされたと主張しています。

憲法違反の問題

 この卒業生が主張する憲法違反の問題については、「居住・移転の自由」に関するものです。

 この卒業生が勤務する病院を一方的に指定して、そこでの勤務を強いるのは、居住・移転の自由(憲法22条1項)等に違反するのではないかという論点です。

 皆さんが裁判官なら、この卒業生の主張をどのように解釈・理解されますか?

労働基準法に違反する問題

 次に、違法とするのは、労働基準法14条1項に関するもので、法律では「労働契約について、医師の場合は期間の定めのないものを除き原則として5年を超えてはならない」と定められているにもかかわらず、今回のケースでは、10年以上の拘束が要求されているという主張です。

 この点については、5年を超えているので、形式上問題があるようですが、仮に、5年を超える労働契約があるとすれば、この卒業生が主張する通り、自治医大の修学金制度のお礼奉公期間の定めは、労働基準法に違反する可能性が出てくるので、このあたりは、法律の専門家の判断を仰がねば、私たちにが考えることではないようですね。

 そして、次の法律違反も、労働基準法に関するもので、その16条で「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めていることです。

 卒業生の主張は、「退職する場合にはお金を払えといった規定を設けることは禁じられている。」としていますが、この件に関しては、

  •  お礼奉公をするならば、貸してあげて居たお金をチャラにしてあげる

という契約なので、退職するならお金を払えと言われたと主張するのは、少し無理があるように思えますが、皆さんが裁判官ならどのように考えられますか?

まとめ

 以上、自治医大の卒業生が、元就職先の愛知県と自治医大を相手取って裁判を起こした事件について注目してみました。

 入学手続きを行う日が、公立大学の入試日と重ねられていたのは、不当な受験生の囲い込みだとの主張は、あまり説得力はないようですね。

 自治医大を卒業後に、家庭の事情により、より多くの収入が必要となったために、自由にアルバイトや勤務先が選べるようになりたくて、指定された職場を、修学金の一括返済や損害金の支払いなしに自由に退職できないのは労働基準法違反だと主張していることにも、その主張をしたくなる事情や気持ちは理解できても、法律に違反しているとは思えないですが、皆さんが裁判官ならばどう考えられますか?

 また、卒業後に勤務先を指定されるのは、憲法違反だとする主張も、私の常識では、この卒業生の主張は、単なるわがままにしか思えませんが、裁判官は、どのように判断されるのでしょうか。

 なかなか、面白い内容の裁判のようですが、今後、裁判官が、その卒業生の主張に対し、どのような考えて判断を下していくのか、とても注目されるところです。

 裁判といえば、なかなか法律用語が難しくて、とっつきにくいものですが、今回のように、内容を簡素化して考えれば、私たちでも判断できそうな部分が見えてきて面白いとは思いませんか?

 皆さんも、それぞれが裁判官になったつもりで、今後ともこの裁判を見守っていただければと思います。

 

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